壊れた安全網は、静かだ
緊急ボタンは、押されれば鳴る。困るのは、押しても届かない状態になっているのに、誰も気づいていないときだ。 電池が切れた端末も、電波をつかめない端末も、自分からは何も言ってこない。 壊れた安全網は、静かだ。
うちのデリヘル管理アプリでは、キャストが身につける安全デバイスについて、緊急の通報とは別に「警告」という種類を持っている。 電池低下と通信途絶は、この警告のほうに入る。 6月に足すまでは、どちらも記録に1行残るだけで、店の画面には何も出ていなかった。
届かないことを、こちらから見に行く
電池は、端末から届く残量が15%以下になったら警告を出す。消すのは25%以上に戻ったときだ。 同じ15%で出し入れすると、境目を行き来するたびに警告が出たり消えたりする。 上の画面の22%の行は、充電を始めてまだ25%に届いていない端末で、だから警告が残っている。
通信途絶は、仕組みが逆になる。電池の残量は端末が送ってくるが、「届かなくなった」という知らせは、どこからも届かない。 だから5分おきに、こちらから全部の端末を見て回る。最後の通信から30分を超えていたら通信途絶にする。30分は運営側の設定で変えられる。 見るのは、キャストに割り当て済みで、契約が有効で、一度でも通信したことのある端末だけ。まだ一度もつながっていない端末まで途絶と言い出すと、警告の意味がなくなる。 端末から次の1通が届いたら、通信途絶は自動で閉じる。
警告では、電話もSMSも鳴らさない。店の画面にお知らせを出すだけで、放っておいても繰り返さない。 連絡先へ電話をかけ、誰も確認しなければもう一度知らせるのは、緊急の通報だけにしてある。 電池が減るたびに夜中の電話が鳴れば、本物の緊急のときに「また電池だろう」と思われる。それがいちばん怖い。 同じ端末の同じ警告は、何度条件に当たっても1件のままにしているのも同じ理由だ。
警告は弱く出す。そのかわり一覧では、オフラインの行を要確認より上に並べている。 電池が少ない端末はまだ届く。つながっていない端末は、いま押されても届かない。